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東京地方裁判所 昭和54年(行ウ)98号 判決

原告 山浅一子 外五名

被告 厚生省第二共済組合

訴訟代理人 瀬戸正義 座本喜一 外四名

主文

1  原告岩崎恒子の本件訴えを却下する。

2  その余の原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  原告岩崎恒子が昭和四八年一〇月五日から被告の組合員であることを確認する。

2  原告岩崎恒子を除くその余の原告らが被告の組合員であることを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の答弁)

1 原告岩崎恒子の本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は同原告の負担とする。

(本案に対する答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らはいずれも厚生省の施設である国立療養所に属する一般職の国家公務員たる職員であつて、日々雇入れの非常勤職員として処遇されているいわゆる賃金職員であり、被告は、国家公務員共済組合法(昭和三三年法律一二八号。以下「法」又は「新法」という。)三条二項四号に規定する厚生省の地方医務局、国立病院、国立療養所、国立がんセンター及び国立循環器病センター(以下「国立病院等」という。)に属する職員をもつて組織する国家公務員共済組合で、法人である。

2  国家公務員共済組合を組織する「職員」は、法二条一項一号(昭和三四年法律一六三号による改正後のもの)により「常時勤務に服することを要する国家公務員(……常時勤務に服することを要しない国家公務員のうちその勤務形態が常時勤務に服することを要する国家公務員に準ずる者で政令で定めるものを含むものとし、……)」と定義されており、右にいう政令として国家公務員共済組合法施行令(昭和三三年政令二〇七号。以下「令」という。)二条(昭和五一年政令三四号による改正後のもの)は「常時勤務に服することを要する国家公務員以外の国家公務員で法第二条第一項第一号の規定により職員に含まれるものは、次に掲げる者とする。

……(略)……

六 国の一般会計又は特別会計の歳出予算の常勤職員給与の目から俸給が支給される者

七 前号に掲げる者以外の常時勤務に服することを要しない国家公務員のうち、大蔵大臣の定めるところにより、常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日(法令の規定により、勤務を要しないこととされ、又は休暇を与えられた日を含む。)が引き続いて十二月を超えるに至つたもので、その超えるに至つた日以後引き続き当該勤務時間により勤務することを要することとされているもの(その支給を受ける給与につき第五条第十号に規定する方法により算定した金額が五千六百円未満である者を除く。)」と規定し、更に、大蔵大臣は、「国家公務員共済組合法等の運用方針」(昭三四・一〇・一蔵計二九二七号。以下「本件運用方針」という。)を定めているが、その法二条関係1は、令二条六号(現行七号)の規定の適用については、次により行なうものとする、と規定している。

「(1) 第二条第六号に規定する「常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日(法令の規定により、勤務を要しないこととされ、又は休暇を与えられた日を含む。)が引き続いて十二月をこえるに至つたもの」は、雇用関係が事実上継続していると認められる場合において、常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日が二十二日以上ある月が、引き続いて十二月をこえるに至つたものとする。」

なお、人事院規則一五―一、四条によれば、常勤職員について定められた勤務時間は、一週間について四四時間である。

3(一)  ところで、非常勤職員のうちには、実際に常勤しながら制度上非常勤職員として扱われるいわゆる常勤的非常勤職員が存在するが、その多数を占めるのは賃金職員である。賃金職員とは一般職の国家公務員のうち日々雇傭されるものをいうが、日々雇傭を一定期間更新し、常勤職員と同様の勤務につき、定員外ではあるが予算上その定数が配付されているものを特に定員見合職員と呼んでいる。

賃金職員は、雇傭関係が事実上継続していて常勤職員について定められた勤務時間である週四四時間の割合以上勤務した日が二二日以上ある月が引き続いて十二月を超え、それ以後も引き続き同様の勤務時間により勤務することを要することとされている場合には、法二条一項一号、令二条七号により最初の採用から一年を経過した日の翌日から国家公務員共済組合の組合員たる資格を取得すると解すべきである。以下詳述する。

(二)  第一に、原告ら国立病院等の常勤的非常勤職員の発生とその実態は次のとおりである。

国家公務員の定員は行政機関の職員の定員に関する法律(以下「総定員法」という。)で総定員が定められ、その枠内で各省庁等の定員が政令で定められることとなつているが、国立病院等は、その特殊かつ重要な役割を果すため必要とされる定員が恒常的に不足している。医療機関の場合定員不足を放置できないので、やむなく定員外の非常勤職員をもつて充足してきた。

従つて、その職務・勤務は臨時的なものではなく、常勤職員と同一の職務・勤務であることが求められ(これは最も非常勤職員の多い看護助手の仕事を見れば明らかである。)、その勤務形態は常勤職員に準じ、その職種も常勤職員の殆どあらゆる職種にわたつており、しかもその数は年とともに増大し、国立病院等における常勤的非常勤職員は、昭和五六年五月現在定員内職員五万二〇〇〇名(管理職を除くと四万五〇〇〇名)に対し六五五〇名の多きに達し、看護関係での比重は殊に大きいものがある。

国立病院等における常勤的非常勤職員は右のように人員増加を必要とするにも拘らず必要とするだけ定員が増えないため、やむを得ぬ必要から置かれることとなつたので、その雇傭を継続する必要があり、職員の側も雇傭の継続安定を求めるのは当然であるから、形式上は別として事実上雇傭が継続長期化し、職員・施設の双方が長期化に対する予測と期待を持つこととなつたのである。

(三)  第二に、法及び令の制定・改正の経緯は次のとおりである。旧国家公務員共済組合法(昭和二三年法律六九号。以下「旧法」という。)は昭和三三年五月全部改正され、法が制定されたが、現行の法二条一項一号の「常時勤務に服することを要しない国家公務員のうちその勤務形態が常時勤務に服することを要する国家公務員に準ずる者で政令で定めるものを含む」とある部分は、制定当時は「臨時に使用される者で政令で定めるもの以外のものを除く」とされていた。現行の「常時勤務に服することを要しない」と当初の「臨時に使用される」とはほぼ同じ意味で、右の点は昭和三四年五月現行のように改正されたものである。

昭和三三年の全部改正に際し衆議院大蔵委員会で「第二条第一項の臨時に使用されるもので本法の適用を受けるものの範囲を定める政令の制定に当つては、一年以上雇傭される常勤的非常勤職員を適用の対象にし得るよう、その実態を吟味の上深甚の考慮を払うべきものである。」との付帯決議(以下「本件付帯決議」という。)が付された。暫定的措置として令二条二項は政令で定めるものの範囲を「常勤職員給与の目から俸給が支給される者」としたが、その後国家公務員共済組合審議会で審議の結果、常勤的非常勤職員の共済組合加入要件を常勤職員と同様の勤務時間働いていて一年以上の継続雇傭の実績があること及び賃金が常勤職員の最低額以上あることを要する旨の結論を採用したため、昭和三三年一二月政令三三一号による令の改正により現行の令二条七号に相当する条項が定められたものである。

(四)  以上の常勤的非常勤職員の実態及び法令の改正の経緯に照らすと、まず、法二条が常勤的非常勤職員にも組合員資格を認めたのは、右のように勤務形態において常勤職員に準ずる者はできる限り常勤職員と同様に処遇することが非常勤職員にとつて大きな利益となるのみならず、公務の能率的運営に資し、国家公務員共済組合制度の目的に適するからに他ならないのであつて、法二条一項一号において「政令で定めるもの」としたのもその範囲を明確化させる趣旨に過ぎず組合員資格を狭めようとする趣旨ではない。

従つて、令二条七号にいう「引き続いて」、「引き続き」とは、法律形式上引き続いての意味でなく、雇傭が実質上継続している意味であり、本件運用方針にいう「雇用関係が事実上継続している」もまた同様であるから、雇傭が手続上一日ないし数日中断しているかどうかはかかわりはない。

(五)  原告らは、いずれも、厚生省の国立療養所の職員として「任期は一日とする。ただし任命権者から別段の通知がない場合は昭和 年 月 日までの間に限り任用を日々更新する。」との条件で採用され、任用予定期間が終ると翌日或いは一日おいて(以下「中断日」という。)更に同様の条件で採用されるという形で、別紙のとおり最初の採用から今日に至るまで雇傭されているものである(但し、原告大石勝枝は、最初の採用手続は右と同様であつたが、その後は、昭和五五年三月三一日まで「任期を……まで更新する」或いは「任期予定期間を……までとする」という手続をとるのみで一日も中断していなかつた。また、原告岩崎恒子は、昭和五六年一月一日定員内職員に採用された。)。

(六)  原告らはいずれも最初の採用以来一週四四時間の割合で任命権者によつて割振られた勤務時間で常勤職員と同様に勤務することを命ぜられ、現在も同様勤務することを要することとされ、かつ、採用以来常に毎月二二日以上勤務してきた。

(七)  更に(五)で述べたように、原告らは最初の採用から今日に至るまで雇傭関係が事実上継続しているものである。このことは、厚生省が年次有給休暇につき継続勤務したことにより休暇日数を加算することとし、賃金単価につき勤続年数によつて増加することとして一年を超えて勤務する実質に合わせて勤務条件を定めていること、また、原告らを中断日にも出勤させていたから、原告らが引き続いて勤務していることは明らかである。

4  ところが被告は、原告岩崎恒子を除くその余の原告らを組合員として取り扱わないので、右原告らは法に定める給付を受けることができないが、その給付は多種かつ直ちに給付を求めることのできないものが多いため包括して組合員であることの確認を求める。また、原告岩崎恒子は現在組合員として取り扱われているが、いつから組合員の地位を取得したかは、組合員として受ける給付などに関係するので最初の採用から一年を経た日の翌日である昭和四八年一〇月五日から組合員であることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2(一)  同3(一)は争う。

(二)  同3(三)の事実は認める。

(三)  同3(四)は争う。後記主張のように、令にいう「引き続いて」、「引き続き」とは法律上引き続いて勤務することを言うのである。

(四)  同3(五)、(六)の事実は認める。

(五)  同3(七)は争う。

有給休暇について労働基準法三九条は、継続勤務を要件としているが、有給休暇の場合には、労働者の企業に対する年功という観点から再採用まで若干の期間があつても右要件を満たすと解される合理性はあるが、制度の趣旨が異なる組合員資格取得の要件についてこれをそのまま採用することはできない。

また賃金単価の差についても、同一人が雇傭されることが繰り返されるという実態が生じたため、過去の勤務実績を反映させる必要があるとの職員組合の要求もあつて原告ら主張のようにしたものに過ぎず、長期雇傭を前提としたものではない。中断日に出勤した例が一部にあつたとしても、これから中断日が全く形式的なものであると言うことはできない。

3  同4のうち、原告岩崎恒子が現に組合員であることは認めるが、その余は争う。

三  被告の主張

1  原告岩崎恒子に関する本案前の主張

原告岩崎恒子が現在被告の組合員であることは被告も認めるところであり、また、同原告が昭和四八年一〇月五日から組合員であつたか否かは過去の事実に関する事柄であるので、同原告の請求は全体として確認の利益を欠き、不適法である。同原告が昭和五五年一二月三一日以前に受けるべき給付が問題であれば端的にその給付を求める訴えを提起すれば足り、退職年金等については、将来退職した際に争えば足りるから、過去の事実の確認を求める必要は何ら存しない。

2  原告らに対する本案の主張

(一) 原告らは令二条七号の「……勤務した日(……)が引き続いて十二月を超えるに至つたもので、その超えるに至つた日以後引き続き……勤務することを要することとされているもの」に該当しないので組合員資格はない。以下詳説する。

(二) まず原告らのような非常勤職員の発生及びこれに関する規制についてみると、昭和二四年六月行政機関職員定員法が制定され、一般職の国家公務員で行政機関に常時勤務する者の定員はこの法律によつて規制されることとなり、常時勤務しない者(二カ月以内の期間を定めて雇傭される者)は非常勤職員として右定員法の規制の外におかれることとなつた。その際単純な労務に従事する者で、現業部門における仕事の規模、永続性、繁閑等により短期間の雇傭を必要に応じて更新する必要があつたものは非常勤職員として定員に含まれないことになり、同時に人事院規則一五―四により一週間の勤務時間を常勤職員の四分の三を超えない範囲に制約されたいわゆるパートタイムの職員となつた。

その結果、現業官庁においては、労働力の確保が困難となつたため人事院は、昭和二五年二月前記人事院規則を一部改正し、任用形式を日々雇入れとし、一日の勤務時間を八時間としてこれらの職員をフルタイムの職員となしうることとし、さらに同年九月人事院通達により肉体的又は機械的労務に服する者で、一般職の職員の給与に関する法律(以下「給与法」という。)一四条の規定による勤務時間で勤務することを要し、かつ、職務の性質上同一人が実質的には二か月を超えて勤務することを例とする官職にある者は、その雇傭期間が二か月以内で定められている者であつても常勤職員として取扱うこととし、これらの者を「常勤労務者」と称することとした。これら常勤労務者は、二か月の雇傭期間の満了によつて退職させるという意味で身分保障のないことを除けば、給与、勤務時間、休暇、社会保障等について定員内常勤職員と実質的に殆ど同じ取扱いを受けることとなつた。

これらの常勤労務者及び日々雇入れの形式で任用されている常勤的非常勤職員の数が増大するにつれ、これら定員外職員の処遇の改善と定員化の問題が生じ一部定員化の措置がとられるとともに、昭和三六年二月二八日の閣議において「定員外職員の常勤化の防止について」と題する次のような決定がされた(以下「本件閣議決定」という。)

(1) 継続して日々雇い入れることを予定する職員については、必ず発令日の属する会計年度の範囲内で任用予定期間を定めること。

(2) 被雇用希望者に対しては、任用条件特に任用予定期間を示し、確認させること。

(3) 採用の際交付する人事異動通知書には(2)の任用条件を明記するとともに、任用予定期間が終了した後には自動更新をしない旨を明記すること。

(4) 採用の際は、必ず人事異動通知書を交付すること。

ただし、任用予定期間が一月をこえない職員の任用にあたつては、人事異動通知書に代る文書の交付その他適当な方法をもつて行なうことができるものとする。

(5) 任用予定期間が終了したときには、その者に対して引き続き勤務させないよう措置すること。

そして原告ら国立療養所における定員外職員には、本件閣議決定以降常勤労務者は採用されておらず、給与法二二条二項で予算の範囲内で給与の支給を受けているいわゆる賃金職員たる非常勤職員のみ採用されている。採用に際しては、本件閣議決定の趣旨に則り、日給額を定め任期を一日とし、年度を超えないように任用予定期間を定め、その間別段の通知がない場合は、その終期まで任用を日々更新する旨、人事異動通知書をもつて本人に告知しており、任用予定期間終了によつて失職した際は「退職した」旨の確認行為として、人事異動通知書を交付することとし、同一人を再雇傭する場合には、年度内において一部の日数が中断するように措置しているのである。

(三) ところで、法及び令の制定の経緯は原告主張のとおりであるが、昭和三三年一一月の国家公務員共済組合審議会における結論により改正された同年政令三三一号による改正後の令では「……臨時に使用される者のうち、常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日(……)が引き続いて十二月をこえるに至つたもので、そのこえるに至つた日以後引き続き当該勤務時間により勤務することを要することとされているもの(……)」に組合員資格が与えられることとなつた。これは雇傭関係が一年を超える期間引き続いて存在していることを当然の前提としており、しかもその間に一日でも欠勤すれば組合員資格の取得要件を満たさないものと解される。右規定の解釈については、昭和三四年一月に「……過去一年間において、継続して一週四四時間以上の勤務を要するものとされていたが継続して当該勤務時間により勤務しなかつた者は、組合員資格は認められない。なお、この場合、過去一年間において、日曜、休日……に勤務しなかつた場合においても、継続して勤務したものとして取り扱われるが、その他の日に勤務しなかつた場合には、継続して勤務したものとして取り扱われない」との通達(蔵計第一八二号)が出されたが、これは、右解釈を前提とするものである。

ところが右通達に対しては、「一日でも欠勤すれば『勤務した日が引き続いて十二月をこえるに至つた』との要件が満たされないというのでは厳しすぎる」との批判があつたので、前記審議会の小委員会の中間報告を得て本件運用方針が出されたのであるが、この過程で前記の令の「……以後引き続き……勤務することを要することとされているもの」との要件については全く問題にされなかつたのである。

従つて、右令の規定とほぼ同様の現行の令二条七号は、法律上雇傭関係が一年を超える期間引き続いて存在していることを前提としたうえで欠勤した場合の取扱いについて、大蔵大臣の定めるところに委ねたものである。本件運用方針の雇傭関係が「事実上継続している場合において」とは、任用予定期間が継続していることを意味する。すなわち、任用予定期間を記載した人事異動通知書又はこれに代る文書の交付によつて雇傭関係が明確である非常勤職員については、その任用予定期間内に仮に本人の都合により欠勤した日があつても、常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日が二二日以上ある場合、その月は事実上継続していることとして取り扱うという趣旨である。更にこのような条件を満たした月が引き続いて一二月を超えるに至つたかどうかが要件となるが、令二条七号の「……引き続いて十二月を超えるに至つたもので、その超えるに至つた日以後引き続き……勤務することを要することとされている」とは、あくまでも時間的に空白がないことを言うものであつて、同一人が一日(中断日)をおいて再採用されても右の要件を満たさないのである。

(四) 右の解釈はまた国家公務員共済組合制度の趣旨を考えるとその実質的裏付けを伴つていることが明白となる。すなわち、

(1) 法は、国家公務員又はその被扶養者の病気、負傷等に関して適切な給付を行なうため、相互救済を目的とする共済組合の制度を設け、その行なうこれらの給付及び福祉事業に関して必要な事項を定め、もつて国家公務員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するとともに公務の能率的運営に資することを目的としている。したがつて、国家公務員共済組合制度は実質的に健康保険又は厚生年金保険の代行的役割を果すとともに、福祉事業については国の役割をも代行する面を有しており、また国家公務員の勤務の特殊性にふさわしい給付を行なう職務的な社会保険制度であり、その給付は組合員の相互出捐を基本としてこれに国が使用主及び公経済主体としての負担を行なつているのである。

(2) 右のように共済組合は、組合員の掛金等で運営されるものであるから、資格取得の要件を定めるについてはその財政面に与える影響も無視できず、その要件が厳しくなるのはやむを得ないところであるが、原告らは、一年未満の任用予定期間内において日々雇傭され、任用予定期間の満了により当然に退職し、再採用されるかどうかは雇主側の自由に属するものであり、その給与も全体としてより低いものとなつている。

(3) また法に定める「職員」となつた者は、その日から本人又は組合の意思如何に拘らず、何らの手続もなく当然に組合員となり掛金を負担する義務を負うこととなるのであるから、一年未満の短期間で退職し、共済組合員資格が取得できる再採用の機会がないと長期給付のための掛金は掛け捨てることとなる不利益が生ずることとなる。

(4) 一方先に主張したとおり共済組合の長期給付制度は厚生年金保険制度の代行的役割を、短期給付制度は健康保健制度の代行的役割を、それぞれ果しているといえるが、原告らは、使用者たる国が法定の保険料を負担する厚生年金保険、健康保険に加入し、かつ各種の給付を受けているのである。特に長期給付については共済組合と厚生年金保険とで大差がないのみならず、最近では後者が有利な場合もある。また共済組合員期間が断続している場合は、併せて二〇年を超えない限り通算退職年金の基礎となるべき組合員期間の計算については合算されないが、厚生年金保険においては合算されることになつていて、非常勤職員にとつてはむしろ厚生年金保険に加入する方が有利であるともいえるのである。

短期給付についてもその九割強を占める、共済独自給付を除いた療養の給付等については、両者の間にそれ程の差はない。

(5) 右のように非常勤職員は厚生年金保険等により共済組合に加入した場合に近い給付を受けることができるのでこれに強制加入させる必要性はないし、組合財政に対する影響、非常勤職員の掛金の掛捨等の問題点からするとむしろ加入させることは弊害が強いものと言うべきである。令二条七号に言う十二月を超えるに至つた日以降「引き続き」とは、少なくとも当初から長期給付制度の適用にふさわしい程度の期間、引き続いて勤務が予定されて任用される者に限る趣旨と解すべきである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張2(一)は争う。

2  同2(二)の事実は認める。但し「再雇傭」にあたり中断日がおかれないこともある。

3  同2(三)のうち本件運用方針及び令二条七号の「引き続いて」「引き続き」の解釈は争う。

4  同2(四)(1)、(3)の事実は認める。

5  同2(四)(4)、(5)は争う。一般に共済組合に加入した方が有利なことは明白である。

第三証拠〈省略〉

理由

一  まず原告岩崎恒子の本件訴えの適否につき検討するに、同原告が現に被告の組合員であることは当事者間に争いがないから、本件訴えのうち現に被告の組合員であることの確認を求める部分は確認の利益がないことが明らかである。その余の部分については、結局過去の法律関係の確認を求めることに帰するところ、同原告は、組合員の資格の取得時期は、組合員として受ける給付などに関係するから確認の利益がある旨主張する。しかしながら、組合員の資格の取得時期が給付の内容に関連があるとしても、右は、個々の給付が問題となつた場合に端的に給付訴訟を提起するなどすれば足りるものであるから、本件の場合過去の法律関係の確認を求める利益を肯認することはできない。

よつて原告岩崎恒子の本件訴えは全て確認の利益を欠き不適法なものと言わなければならない。

二1  次に原告岩崎恒子を除くその余の原告ら(以下二において「原告ら」という。)の請求について判断するに、請求原因1、2、3(三)、(五)、(六)、被告の主張2(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  法上の職員の定義につき法二条一号は、原則として常時勤務に服することを要する国家公務員とし、例外として「常時勤務に服することを要しない国家公務員のうちその勤務形態が常時勤務に服することを要する国家公務員に準ずる者で政令で定めるものを含むものとし」と定め、令二条七号は「前号に掲げる者以外の常時勤務に服することを要しない国家公務員のうち、大蔵大臣の定めるところにより、常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日(……)が引き続いて一二月を超えるに至つたもので、その超えるに至つた日以後引き続き当該勤務時間により勤務することを要することとされているもの(……)」と定めているから、まず右各条項の趣旨及び運用の経緯等について検討する。

成立に争いのない甲第四、第五号証、第一三号証、乙第四号証、第八ないし第一三号証(甲第四、第五号証については原本の存在も争いがない。)及び証人浦田博、同小池將元、同川乱秀世の各証言並びに前記争いのない事実を総合すると、

(1)  国家公務員の定員は、総定員法で総定員が定められ、その枠内で各省庁の定員が政令で定められるが、国立病院等においては医療看護体制の強化の必要性から恒常的に定員が不足し、やむなく人手不足を定員外の賃金職員で充足している。賃金職員の身分は、国家公務員法二条二項に規定する一般職に属し、処遇としては非常勤職員としての取扱いを受けるが、そのうち予算上定数が配付され、定員内職員と同様の勤務につく恒常的賃金職員を定員見合職員と呼んでいる。国立病院等における定員見合職員の数は年とともに増加し、定員内職員五二〇〇〇名に対し六五五〇名に達しており、原告らもこれに属する。

(2)  ところで、国家公務員のうちの非常勤職員の組合員資格について旧法では「一 常時勤務に服しない者二 臨時に使用される者」は組合員資格を与えられていなかつたが(一二条、一条)、昭和三三年五月法律一二八号による全部改正により新法二条一号は、「臨時に使用される者で政令で定めるもの」について組合員資格を認め、同年六月制定された令(昭和三三年政令二〇七号)二条二項は、右の範囲につき、「国の一般会計又は特別会計の歳出予算の常勤職員給与の目から俸給が支給される者とする。」と定めた。

(3)  新法制定の際の衆議院大蔵委員会では、本件付帯決議が付されたのであるが、非常勤職員のうちいずれの範囲の者に組合員資格を与えるかについては意見の対立があり国家公務員共済組合審議会の検討に委ねられた。しかし、とりあえず旧法の下において長期給付の適用を受ける共済組合員として資格を認められていた種類の職員は暫定的に新法の下においても組合員資格を認めることとし、前記令二条二項が定められたものである。

(4)  その後昭和三三年一一月右審議会において、常勤職員と同様の勤務時間で勤務した実績が一年以上継続しており、賃金が常勤職員の最低額以上ある場合には、非常勤職員に組合員資格を与えるべきであるとの結論が出され、同年一二月一六日、政令三三一号をもつて令が改正され、前記の者をその二条三項一号に掲げ、二号に「前号に掲げる者以外の臨時に使用される者のうち、常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日(法令の規定により、勤務を要しないこととされ、又は休暇を与えられた日を含む。)が引き続いて十二月をこえるに至つたもので、そのこえるに至つた日以後引き続き当該勤務時間により勤務することを要することとされているもの(……)」と定められた。

(5)  右令の解釈の統一を図るための昭和三四年一月二九日付大蔵省主計局長通知(蔵計一八二号)は、「……過去一年間、当該勤務時間による勤務が継続し、さらに引き続き当該勤務時間による勤務を要するものとされている者は、当該勤務時間による勤務が継続して一年をこえるに至つたときから組合員資格が認められるが…過去一年間において、継続して一週四四時間以上の勤務を要するものとされていたが継続して当該勤務時間により勤務しなかつた者は、組合員資格を認められない。なお、この場合、過去一年間において、日曜、休日その他法令の規定により勤務を要しないこととされている日又は有給休暇若しくは、無給休暇を与えられた日に勤務しなかつた場合においても、継続して勤務したものとして取り扱われるが、その他の日に勤務しなかつた場合には、継続して勤務したものとして取り扱われない。」と規定された。これは一日でも欠勤すれば継続勤務として取り扱わない旨の解釈を前提としたものである。

(6)  しかし、実状に即さないため、前記審議会で小委員会を設けて検討した結果、非常勤職員を共済組合に加入させる基準として「雇用関係が明確にされている者」は「たとえ欠勤があつても常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日が二十二日以上ある月が一年内に通算して六月以上あれば継続して勤務したものとすること。」との中間報告がなされ、これが前記審議会において更に検討され、昭和三四年一〇月一日本件運用方針が出された。本件運用方針においては、「常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日が引き続いて一二月をこえるに至つたもの」は、雇傭関係が事実上継続していると認められる場合において、常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日が二二日以上ある月が、引き続いて一二月をこえるに至つたものとする、と規定されているが、前記の経緯により明らかなように欠勤があつた場合を想定して運用を緩和したものにほかならなかつた。

(7)  一方いわゆる常勤労務者及び常勤的非常勤労務者の数が増大してきたため、これらの職員につき一部定員化の措置がとられるとともに、昭和三六年二月二八日「定員外職員の常勤化の防止について」との本件閣議決定がなされ、原告らのように継続して日々雇入れることを予定する職員については発令日の属する会計年度の範囲内で「任用予定期間」を定め、右任用予定期間中は自動的に更新するがこれが終了した後は自動更新をしないこと、右任用予定期間は「人事異動通知書」に明記し、これを採用にあたり交付すること、任用予定期間が終了したときは引き続き勤務させないようにすることとされ、これが同年三月二五日厚生省においても各部局に通知された。

以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

しかして、原告大石勝枝については昭和五五年四月二日から、他の原告については当初から、本件閣議決定に定められたように、任期を一日とし、各会計年度内で任用予定期間を定め右期間中は任期を自動更新し、右期間を終了したときは「退職した。」との人事異動通知書を交付し、一日又は二日の中断日を置いて再採用されるという形式で採用されてきたことは、当事者間に争いがない。

3(一)  そこで前認定の令の改正及び運用の経緯をふまえて考えると、現行の令二条七号(昭和三三年政令三三一号による改正後の令二条三項二号と同趣旨である。)は、組合員資格として、〈1〉常勤職員について定められている勤務時間以上勤務した日が引き続いていること、〈2〉それが一二月を超えるに至つたこと、〈3〉その超えるに至つた日以後引き続き当該勤務時間により勤務をすることを要することの要件を必要としているところ、〈1〉の要件の運用につき、当初は休日を除き一日でも欠勤すればこの要件を欠くとされ、その後一週四四時間、一か月二二日勤務すれば右の要件を充たすと便宜的に変更されたが、〈2〉〈3〉の要件は、任用関係が一二月を超える期間引き続いて存在することを前提としており、右の「引き続いて」とは、先の任用と後の任用とが引き続いていてその間に時間的空白がないか又は任用予定期間が接続していることを意味すると解するのが相当である。

したがつて、原告らのように任期を一日とし、四月一日から翌年三月三〇日まで又は四月二日から翌年三月三一日までと年度を超えないように一年未満の任用予定期間を定め、次の任用との間に一日以上の中断日をもうけている場合には、勤務した日が引き続いて一二月を超えるに至つたものとはいえず、かつ、以後引き続き勤務することを要するとされていないのであるから、令二条七号に掲げる職員にはあたらないといわなければならない。

(二)  原告らは、右の「引き続いて」又は「引き続き」は事実上引き続いていれば足りるものであると主張する。

しかしながら、(一)において判示したとおり、任用予定期間が終了し、次の任用との間に一日以上の中断日をおく場合には任用関係が中断し、令二条七号の勤務した日が引き続く場合にはあたらないと解すべきである。また、本件運用方針の「雇用関係が事実上継続している場合において」とは、任用予定期間の定めがあるなどして雇傭関係が明確である場合に右任用予定期間内であれば欠勤しても勤務が事実上継続していると認められる場合のあることを明らかにしたにとどまるものであることも先に判示したとおりであるから、前記令二条七号に関する解釈が本件運用方針と矛盾するものではない。

(三)  次に原告らは、中断日があつても、実質的には原告らの任用は採用以来今日まで引き続いている旨主張し、その根拠として、年次有給休暇が加算されること、賃金単価が増加すること、中断日にも勤務させていることをあげる。

前掲甲第五号証によれば、賃金職員の年次有給休暇は労働基準法三九条に従い継続勤務したことによつて休暇日数の加算を認めていることが認められる。同条の継続勤務に関しては、原則としては同一官署に勤務し、雇傭関係が社会通念上中断されていない場合をいうが、実際上は雇傭中断期間があつて一時的に離職することがあつても、同一施設に再雇傭されている限りは実質的に継続しているものと認められる旨の解釈・運用が行なわれているため、有給休暇についてはこれにより賃金職員を有利に扱つたものにすぎず、制度の趣旨の異なる共済組合員の資格取得の要件について右と同一の解釈をとらなければならない理由はない。

また証人浦田博、同小池將元の各証言によれば、昭和五三年頃から原告ら賃金職員の日給額単価につき経験年数に応じた加算制度をとつていることが認められ、証人小池將元の右証言によればこれは職員組合の要求を容れて定めたものであることが認められるが、右のような定めがあるからといつて各原告の雇傭が当然に一年を超えて継続することが予定されていたと言えないことは言うまでもないところである。

また証人浦田博及び同小池將元の各証言によれば、以前中断日に当該賃金職員を出勤させていた施設もあることが認められるが、右各証言によれば、これは必ずしも全国的な取扱いであつた訳ではなく、また、少なくとも本訴提起後は、本件閣議決定に定められた手続が厳格に履践されていることが認められるので、右事実をもつて原告らの雇傭の「中断」が全く実質を伴わない形式的なものであつて、原告らは引き続き勤務を要することとされているものであると解することは出来ない。

よつて原告らの右主張はいずれも理由がない。

(四)  原告らは、いずれも昭和五六年三月三一日に任用予定期間が終了して退職し、中断日をおいて一年未満の任用予定期間を定めて再採用されて現在に至つているものであるから、被告の組合員資格を有しないことは以上の説示により明らかである。

三  よつて、原告岩崎恒子の本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、その余の原告らの請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 時岡泰 満田明彦 揖斐潔)

別紙

一 原告 山浅一子 国立秋田療養所勤務。調理助手、五三・一一・一(昭和五三年一一月一日の略、以下同じ。)より看護助手

五一・七・一―五二・三・三一

五二・四・二―五三・三・三一

五三・四・二―五四・三・三一

五四・四・二―五五・三・三一

五五・四・二―五六・三・三一

五六・四・二―五七・三・三一

二 原告松島勝 国立療養所天竜荘勤務。保清夫、五〇・四・一より看護助手

五〇・ 一・ 七―五〇・ 三・三〇

五〇・ 四・ 一―五一・ 三・三一

五一・ 四・ 二―五二・ 三・三一

五二・ 四・ 二―五三・ 三・三一

五三・ 四・ 二―五四・ 三・三一

五四・ 四・ 二―五五・ 三・三一

五五・ 四・ 二―五六・ 三・三一

五六・ 四・ 二―五七・ 三・三一

三 原告高橋ヨシヱ 国立青野原療養所勤務。看護助手

五一・ 九・ 一―五二・ 三・三一

五二・ 四・ 二―五三・ 三・三一

五三・ 四・ 二―五四・ 三・三一

五四・ 四・ 二―五五・ 三・三一

五五・ 四・ 二―五六・ 三・三一

五六・ 四・ 二―五七・ 三・三一

四 原告岩崎恒子 国立岡山療養所勤務。検査助手

四七・一〇・ 五―四八・ 三・三一

四八・ 四・ 一―四九・ 三・三一

四九・ 四・ 一―五〇・ 三・三一

五〇・ 四・ 一―五一・ 三・三〇

五一・ 四・ 一―五二・ 三・三〇

五二・ 四・ 一―五三・ 三・三〇

五三・ 四・ 一―五四・ 三・三〇

五四・ 四・ 一―五五・ 三・三〇

五五・ 四・ 一―五六・ 三・三〇

五 原告大石勝枝 国立療養所愛姫病院勤務。看護助手

四九・ 五・ 八―四九・ 九・三〇

四九・ 九・三〇―四九・一二・三一

五〇・ 一・ 一―五〇・ 三・三一

五〇・ 四・ 一―五〇・ 六・三〇

五〇・ 六・三〇―五〇・ 九・三〇

五〇・ 九・三〇―五〇・一二・三一

五〇・一二・三一―五一・ 三・三一

五一・ 四・ 一―五一・ 六・三〇

五一・ 七・ 一―五一・ 九・三〇

五一・一〇・ 一―五一・一二・三一

五二・ 一・ 一―五二・ 三・三一

五二・ 四・ 一―五二・ 六・三〇

五二・ 七・ 一―五二・ 九・三〇

五二・一〇・ 一―五三・ 三・三一

五三・ 四・ 一―五三・ 九・三〇

五三・一〇・ 一―五四・ 三・三一

五四・ 四・ 一―五四・ 九・三〇

五四・一〇・ 一―五五・ 三・三一

五五・ 四・ 二―五五・ 九・三〇

五五・一〇・ 一―五六・ 三・三一

五六・ 四・ 二―五七・ 三・三一

六 原告岩下政子 国立療養所南福岡病院勤務。 看護助手

五一・一〇・ 一―五二・ 三・三〇

五二・ 四・ 一―五三・ 三・三〇

五三・ 四・ 一―五四・ 三・三〇

五四・ 四・ 一―五五・ 三・三〇

五五・ 四・ 一―五六・ 二・二八

五六・ 三・ 一―五六・ 三・三一

五六・ 四・ 二―五七・ 三・三一

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